@





       
ENGLISH
運営団体
メロウ伝承館プロジェクトとは?
記録のメニュー
検索
その他のメニュー
メイン
   実録・個人の昭和史I(戦前・戦中・戦後直後)
     電気通信大学藤沢分校物語
投稿するにはまず登録を

スレッド表示 | 古いものから 前のトピック | 次のトピック | 下へ
投稿者 スレッド
編集者
投稿日時: 2015-2-13 14:27
登録日: 2004-2-3
居住地: メロウ倶楽部
投稿: 4289
電気通信大学藤沢分校物語 (5)
 4.3

 藤沢市会に於ける逓信省説明の真意前号まで 2回にわたり藤沢市「官立無線電信講習所新設費起債」の議事録を紹介した。議事録には、逓信省の説明に誤りがあり、また読者からの同様なご指摘により、その都度ト正したが単純なミスとは考えられないので本号で検証する。ミスの箇所とは「現有の逓信協会の目黒講習所の設備を移管する」「一切を逓信協会から移す」(注 51)のくだりで、何故電信協会を逓信協会と発言したのかの疑問がある。更に新たに指摘するのは「元の逓信大臣田健次郎閣下がやっておられる東京目黒の無線講習所が」のくだりで(注 52)、何故、田健次郎を若宮貞夫としなかったのかの 2箇所である。尚、文中の氏名敬称は略させていただいた。

 1942年(昭 17) 3月に行われた主な進捗経過を下表に示す。

 3月 26日の藤沢市会での逓信省発言の疑問箇所は、他の資料とは全く整合性が無くむしろその違いの大きさは奇異にさえ感じられる。各資料が示すように電信協会を中心に進んでいた官立移管が突如 3月 26日だけ逓信協会に変わり、 3月 28日には再び電信協会に戻るのである。これは何故か?

 結論から云うと「逓信協会」を「電信協会」に、「元の逓信大臣田健次郎閣下」を「元の逓信次官若宮貞夫電信協会会長」に訂正するのが妥当であろう。

 1)第 1の疑問:前号で説明の通り「逓信協会は」は「電信協会」が正しい。

 2)第 2の疑--------------------------------------------------------------------1930年(昭5)に死去しており、 1918年(大7)から 1942年(昭17)の移管まで経営をしていた貞夫が最大の功労者である事は多くの資料で明白である。

 「若宮貞夫先生の追憶」(注 53)の中で「大東亜戦争の勃発により、俄に無線電信講習所の官立移管機運が高まり昭和 17年 1月に至り電信協会の若宮会長の内諾を得て官立無線電信講習所の経費が追加予算に計上され閣議決定された」と宮本吉夫氏は述べている。その経過を充分に承知している筈の担当の、隅野無線課長、事務官が計 3度も逓信協会と発言した事は単なるミスとは考えられない。又、議会書記のミスとも考え難い。

 それではどのような理由があったのだろうか?

 私はその謎を次のように推定する。その疑問を解く鍵は電信協会会員総会の開催日、即ち「講習所設備一切の寄付」の決議が行われる 3月 28日にある。即ち、 26日に講習所の財産を説明する藤沢市会では、「寄付の決議」は 2日後になるため、「逓信省に電信協イから財産が寄付された」との公表は出来ないとし、やむなく逓信省に関係の深い「逓信協会」、「田男爵」の名を使っての苦しい説明にせざるを得なかったのではないか?私には、今、確たる資料がないので断定は出来ないが、恐らく「寄付未決の対処策」であったと推定する。

 4月 1日開所に向けての準備段階の時間の不足が最大の原因であり、更に後年、藤沢市会々議事録が、一般公開される事も想定外であったので、このような説明を考えたと思われる。ところで、総会が 28日に設定された経過は不明である。尚、電通大 60年史には財産寄付問題に関して興味深い事が語られている。「官立に移管する時、財産をどうするか問題になった事がある。当然電信協会は解散する手筈になっていたが、当時の隅野無線課長からか、それとも他の誰かが若宮会長に話されたのか不明であるが、一説によると無線同窓会を社団法人に改組して協会所有の無線講習所の土地並びに建物一切を継承させ、その土地と建物を逓信省が借り受け、賃借料を無線同窓会に支払い、その金で生徒の寄宿舎や食堂などを経営させてはどうかという事であったが、この案は残念と云うべきか実現しなかった。当時の金額で約 160万円であった--------------------- 年月日主 題関 係 部 署会報No、資料(出典)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 1942年(昭17)3月の官立移管のための主な進捗経過

 (以下、上段より「年月日」「関係部署」「会報No.資料(出典)」)

 3月19日
  講習所設立に関する件
  逓信大臣→若宮電信協会会長
  vol. 23-2、目黒無線同窓会誌
  無線通信士養成事業の経営を、昭和 17年度より実施するので貴会講習所設備の移管をお願いしたい。

 3月23日
  逓信大臣講習所視察
  逓信省、講習所電信協會 50年史
  講習所発展の経過、教育方針、現況の概要説明、校舎の案内、無線電信実験室の設備、通信術練習及び授業の実況等の現場説明を受けた。生徒全員に対し訓示した。

 3月24日
  校舎等借入の依頼
  逓信省電務局長→藤沢市長
  vol. 23-2、官立新営関係書類
  無線通信士養成事業の実施に当たり校舎、寄宿舎は借入に依るとの方針で、昭マ 17年度予算が成立した。
  政府は、藤沢市に校舎等新営の依頼をして、政府に貸与方のお願いをした。

 3月26日
  官立無線講新設の起債
  藤沢市会
  Vol. 24-1、藤澤市會々議録
  逓信省の説明①教育其の他一切を逓信協会から本省に移す。②若宮会長については一 -----------------------------
 3月28日
  設備寄付の決議
  電信協会臨時総会
  Vol. 23-2、電信協會 50年史
  電信協会はこの目的のために政府が使用する事は本懐とする所で設備一切を寄付する事を決議した。

 同上
  感謝状の授与
  逓信大臣→若宮会長及び両理事
  Vol. 25-1、電信協會 50年史
  無線通信士の養成事業に対する功績洵に大なり。社団法人電信協会管理無線講習所を政府へ移譲せられるに際して、多年の功労に対し深甚なる感謝の意を表す。

 4月1日
  官立無線講業務開始
  中村所長事務取扱い
  電気通信大学 60年史
編集者
投稿日時: 2015-2-13 14:11
登録日: 2004-2-3
居住地: メロウ倶楽部
投稿: 4289
電気通信大学藤沢分校物語 (4) 4

 ○5番(石井光三君)

 皆さん方のご質問で大変よく分かりました。今迄の質問は市に損が行きはしないかと云う点に重点があったようであります。(笑声)私は反対に市に得が行きはしないかと云う意味で重ねてお訊ね致します。中途に於ける買収と云う事を抜きに致しまして年々償却致して参りますと、25年後にはそれだけ財産が残ると云う事になります。私の考えますのは、それだけ市の得になるのではないかと思います。そうして最後に償還を終わった際には、其の土地、建物を献納すべきものであるかどうか。そう云う事が契約書に入りますかどうか、其の点を伺いたい、私は得が行く方で心配になる。(笑声)私共はそうは思いませんが市民の中には25ヶ年の償還年限が過ぎれば其の土地、建物はそれだけ丸儲けになる、市がそれだけ得をすると云うふうに考える人があると困りますので、そう云う点に付いてのお見込みをはっきり伺って置きたいと思います。

 ○番外(逓信事務官石川武三郎君)

 大体契約書の中にそう云うような事が入ると思います。25年過ぎれば無償で国に寄付をすると云うような契約になるであろうと思います。(笑声)

 ○16番(山上八造君)

 私は、一番最初の協議会に出席してませんでしたので、当時の内容に付いては全く知りませんのでございますが、初めて本案が提出になりまして各方面からの意見、質問等を聴きまして、洵に時代に相応しい、而も今日の場合、急速なる必要性と云う事を痛感致しました一人でございます。この場合細かい内容其の他に付いて、彼是申上げる意思は毛頭持って居りません。斯くなりました以上は一日も早く本校舎の建設事業が出来るように、理事者に於いても今一段のご配慮、ご心配をお願致しまして、これが迅速に何とか国家のお役に立つように地元民としては熱心に献身的にこれが実現に寄与するように致したい、こうした希望を述べお願いをする次第であります。

 ○議長(鈴木勇君)

 他にご質問はありませんか。

 ○議長(鈴木勇君)

 それでは議案第29号の第一讀会はこれで終わる事に致しまして決を執りたいと思いますが。

 (「異議なし。賛成」と呼ぶ者あり)

 ○議長(鈴木勇君)

 それでは左様取扱う事に致します。議案第29号にご賛成のお方は御起立をお願いします。

 (総員起立)        

 藤沢市会に於ける逓信省の説明は、「現有の逓信協会の目黒の講習所の設備を移管した」としているが、「逓信協会」は誤りである。即ち、昭和17年3月24日付の公文書「電無367号」「官立無線電信講習所設立ニ関スル件」に於いて逓信大臣寺島健は、「昭和17年度より無線通信士養成事業を、直接逓信省に於いて経営する事に決定し、時節柄、経費及び資材等の関係もあり、電信協会管理無線電信講習所施設を移管し、継承の事とすれば大きな便益があるので、ご配慮を賜りたい」と社団法人無線電信協会会長若宮貞夫宛てに申入れている。(本物語②参照)

 次号で、更に「逓信省の説明」の内容について触れる事にする。  (以下次号)

 注) 本稿で引用した資料は最終稿にまとめて記載します。

 注41) 藤澤市會々議録(昭和17 年3月26日)

 注42) シ号で述べる。

 注43) 同年5月「官立無線電信講習所校舎等貸借要綱」が成立した。
編集者
投稿日時: 2015-2-13 14:09
登録日: 2004-2-3
居住地: メロウ倶楽部
投稿: 4289
電気通信大学藤沢分校物語 (4) 3

 ○30番(小川桂助君)

 先程のご説明に依り無線通信士の養成と云う事は、国家的に緊急且つ重要性を持つものであると十二分に認識して居ります。こうした時局下に在っては、個人たると団体たるとを問わず、国家目的達成のためには相当の犠牲を忍ばなければならぬ事は当然の事と思います。而もご説明に依りますと、其の国家目的を十分に達すると共に市の発展がそれに伴うと云う事になりますので、洵に結構の事と思います。

 ただ問題は財政上の事であります。私の聴かんとする所を平ったく申上げますれば、本市が本件のために起債を致しまして、相当膨大なる所の金額でありまするが、これを年々歳々償還して行かなければならぬのでありますが、この償還に当たって、こちらから償還すると同時にそちらから入って来ると云う建前の下に計画されたものであろうと思いますが、それが円滑に行けば問題はありませんが、こちらは払うが、そちらからは入って来ないと云う事になると困ると思います。それから金利でありますが、これも平ったく言うと当市で借りる方は4分5厘でそちらからは7分6厘に相当する賃借料をお払い下さると云うお話でありましたが、そうすると当市の方で3分儲かると云う事になりますが、それが円滑に確実に行けば、強いて買収云々と云う事を考慮する事もないと思います。市に於いて土地、建物を提供するのか、或いは又金だけ借りて提供するのか、其の点を今一度はっきり伺っておきたいと思います。

 ○番外(逓信事務官石川武三郎君)

 ご心配の点ご尤もの事と思いますが、これは政府で賃借するのでありますから、支払いの点に於いてはご心配ないと思います。又其の賃借料も市で借入されるのは4分5厘で、逓信省で払う賃借料は7分6厘でありますから、ご当市に於いてご損になるような事は絶対にないと思います。先程も25年も継続して償還する事は如何かと云うご質問もあったよう、ありますが、其のまま据置いた所でそうご厄介になるものではなかろうかと思います。併し念のために申上げて置きますが、只今お訊ねのように3分1厘全部が儲かる訳では(笑声)ありません。

 ○13番(広瀬久君)

 只今のご説明でよくわかりました。修繕を確実にお引き受け下さると云う事であれば安心であります。金の方は償還すればそれだけ宛て金額は減って参りますが、建物の方は海岸でもあり、風のひどい場所でありますので25年も経ちますと相当に傷むと思いますので、修繕を確実にやって頂くと云う事であれば安心であります。

 ○番外(逓信事務官石川武三郎君)

 今迄の例に依りますと主家(筆者注:おおや)さんはなかなかやってくれないのでどうしても借主の方でやるようになります。本件もそう云うふうになるであろうと思います。(「それならば安心だ」と呼ぶ声があり)

 ○番外(市長大野守衛君)

 この問題に付いては逓信当局と市との間に固い契約を結ぶ必要がありますので、理事者に於いても慎重に考えまして、其の契約の案文に付いては又改めてお願いする事に致したいと思います。

 その辺の事はご安心下さるようにお願い致します。(注43)
編集者
投稿日時: 2015-2-13 14:07
登録日: 2004-2-3
居住地: メロウ倶楽部
投稿: 4289
電気通信大学藤沢分校物語 (4) 2

 ○19番(山内泉君)

 色々ご説明を伺いまして、其の事業が国家的に緊急且つ必要なものであると云う事はよく承知して居りますが、先日の全員協議会に於いて承りました事、本日の石川事務官のご説明とは少し喰い違いがあるように思いますので、一寸重ねてお訊ね致します。先日のお話では、これは政府の仕事であるが、予算を取る関係上それが間に合わない、急を要するものであるからお願いする、自治体にあまり長い間の負担をかけたくない、逓信省としては出来るだけ早く予算を取って買収するつもりである、既設の目黒の講習所の土地、建物等を売却すれば相当財源も入って来るから長い事ではない、急速に近い間に逓信省で買収すると云う意味に、私はセ知して居りました。この点に付いて今少し皆さんにはっきり諒解の出来るように説明して頂きたいと思います。

 ○番外(逓信事務官石川武三郎君)

 政府事業であると云う事は先程も無線課長が説明申し上げた通りで、其の買収も出来るだけ早い機会に於いて実現するよう努力する事は当然でありますが、それが先程も申し上げましたように、来年であるか、5年先であるか、確実な見透しは、今の所はっきり付いて居りません。直ぐに買収出来るのだと云うように諒解されて居ると困ります。そう云う意味で申し上げたのではなかったのであります。

 ○19番(山内泉君)

 起債の形式に依ると償還期限が25ヶ年になって居りますが、金銭の貸借関係は官庁の間でも個人の間でも、期間が長いと其の間に予定通りに行かない事が起きる心配があります。若し、金利に追われて25年経過して元金が支払えないと云うような事になりますと困りますので。

 ○番外(逓信事務官石川武三郎君)

 そうしたご心配は一応ご尤もの事と思いますが、若し最悪の場合25ヶ年かかると致しましても、その間に於いて金利、元金も償還出来るよう予定してある事でありまセ垢・蕁・br />
 ○19番(山内泉君)

 其の間の修繕その他の費用は如何になるものですか。

 ○番外(逓信事務官石川武三郎君)

 それは契約に依る事でありますが、大体今迄の例に依りますと、借主の国に於いてやって居るようであります。実際の状況から言っても使用して居る方で、暇がかかったり、手続きが面倒でありますと不便を感じますので、成るべく借主の国に於いて修繕をやると云うのが例になって居るようであります。

 ○番外(逓信省隅野無線課長)

 私からも附け加えて申上げておきます。成るべく早い時期に買収したい、政府のものにしたいと云う念願をもって居る事は、これは間違いのない事であります。ただ、其の時期に付いては今の所、はっきりと何年後と云う見透しはつかない訳でありますが、現在の所では少なくとも2,3年或いは5,6年間は手が出ないのではなかろうかと思います。

 次に起債償還に付いてのお訊ねでありますが、こうした例は他にもあるのであります。逓信省としては、名古屋市で郵便局を建てて貰って之を賃借する、そうして25年経てば大体元利金一切を償還して政府のものとなる、若し25 年ー内に予算の都合が付けば、其の差額を払って、決済して行くと云う方法を執って居ります。尚、本件に付いては御当市に色々と迷惑をかける事もあるかと存じますが、何れ実行委員のお方が出来れば、詳しい数字をお目にかけられると思いますから。

 次に修繕の件でありますが、これは只今石川事務官が申し上げましたように、今迄の例に依ると、逓信省の営繕係がやって居るようでありますから、そう云うようなやり方になると思います。
編集者
投稿日時: 2015-2-13 14:05
登録日: 2004-2-3
居住地: メロウ倶楽部
投稿: 4289
電気通信大学藤沢分校物語 (4)

 前号では、藤沢市会に上程された「官立無線電信講習所新設費起債に関する件」について、逓信省側の説明がされ、質疑が行われた事を述べた。今号も、引き続き市会での質疑応答を紹介する。

 4.2逓信省説明と質疑応答(続き)(注41)

 ○番外(逓信事務官石川武三郎君)

 逓信省の石川でございます。私からご説明申上げます。

 ご質問の第一は260万円の起債額の中に土地、建物、機械設備を全部含むものであるかどうかと云うお訊ねのように拝聴いたしました。この点に付いては先程無線課長から説明申し上げましたように約2千人の生徒を収容するのでありますから、それに対する土地、建物だけで、約260万円はかかると云う見込みをつけて居るのであります。

 それ以外に相当設備費がかかる訳でありますが、これに付いては現有の逓信協会(注42:電信協会の誤り)の目黒講習所の設備を移管する他、各省に於いても関連の予算額の中から、相当額の支出をして頂ける見込みであります。現在、目黒の講習所の土地建物其の他の設備を売却すると時価約100万円位になります。そこで其の売却金をこちらに貰うよう大蔵省と交渉中でありますが、若しそれが出来れば260万円の中からその分だけ引ける訳で、従って藤沢市にご厄介になるとすれば、160万円で済む訳であります。併しこれは目下交渉中でありますので、はっきりしたお約束はできないので、一応260万円全部を藤沢市でやって頂く事にして、賃借料としては起債額の7分6厘の予定で、予算を計上致して居ります。

 次に、起債に当たって時局柄認可が困難のように思われるが、逓信省側として大蔵省の方に認可になるよう積極的に斡旋して欲しいと云うようなお訊ねに承りましたが、これに付いては、勿論言われる迄もなく逓信省側としては尽力するつもりで居ります。この事に付いては先程も無線課長から申上げましたように大ツ省でも其の緊急なる必要性は十分認めて居るので、そうご心配になる程の事ではないかと思います。尤も起債を認可する方と、予算を承認する方との部局は違うかも知れませんが、多少の曲折はあるかも知れませんが、国として其の趣旨を認めている以上、多少の日時を要することがあるかも知れませんが、これは最後に於いては纏まるものと信じて居ります。

 次に償還年限の25年と云うのは長きに過ぎはしないか、成るべく早い機会に於いて買収して貰いたいと云うご希望のように承りましたが、これに付いても、国の財政が許すならば、出来るだけ早く国有のものとしなければならぬと云うふうに考えて居ります。私共としてもこれは言われなくても、出来るだけ早く実現するように尽力するつもりで居ります。

 次に初年度に於いて建物が出来上がらない中に賃借料を払って貰えるかどうかと云うお訊ねのように承りましたが、之は其の場合の契約に依って決まる問題でありますが、前にも申しましたように、市の財政に悪い影響を及ぼさないようにと云う事は十分考慮して居りますので、或る程度の金利は勿論支払わなければならぬと云うふうに考えて居ります。以上の通りであります。

 ○25番(中田吉堯君)

 詳細なるご説明がありまして大体の事は承知致しましたが、尚重ねて一寸伺って置きたいと思います。起債認可の点に付いては、予算を取る方と認可の方は部局が違うから多少の曲折はあるかも知れないと云う事でありましたが、これは勿論の事でありますが、確実に認可になるように大蔵に対して十分に交渉をなさって居られるのでありますか。或いは多分認可になるであろうと云う見込みなのですか、それとももっと突っ込んだ交渉をなさって、既に諒解済みなのでありますか。

 次に買収期限の問題でありますが、成るべく早い機会に、云う事でありましたが、凡そどの位の期間と云うご予定でありますか、確実な事が分かって居れば序に伺いたいと思います。

 ○番外(逓信事務官石川武三郎君)

 大蔵省の起債認可の件に付いては、実はご当市の方と具体的な事が決りましてから、其の方に出向いて交渉しようと云うように考えて居りました。未だ連絡はして居りません。併しこれは確実に認可になるだろうと云う信念を持って仕事を運んで居ります。

 次に買収の時期でありますが、只今の所では、こうした時局でありますから何時になったならば、それが実現するか、はっきりした時期は私共にも分かりません。今後何年間の中に確実に買収できると云う見透しは、只今の所実は出来かねます。出来るだけ早い機会に、国有に移すよう十分努力するつもりでありますから、この程度にご諒承願いたいと思います。

 ○25番(中田吉堯君)

 大変失礼な事を伺いましたにも関わらず、お咎めも無くご親切なご答弁を頂きまして、当局の意のある所は十分に諒解しました。本件は時局下、重大なる国家的事業であり、而も緊急を要する事業でありますので、市と致しましても喜んでお仕事に協力致そう、云う事で、本日本案を提出された事と思います。本市としては国家の重大事業と云う事を抜きに致しましても、私共の、住んで居ります市の発展のために貢献する所、又大なるものでありと信じて居ります。従って本案に対しては喜んで賛成を致すものであります。併し何分にも斯様な時節でありますので、実際に仕事をする上に於いて市財政上の点に付いても色々と考慮すべき点があると思いますので、本件執行に当たっては、9名乃至10名の委員を挙げて本事業の完成を期すると同時に一方財政的にも考慮して行きたいと思います。

 委員会を設けて仕事を進めて行くように希望意見を述べまして本案に賛成するものであります。
編集者
投稿日時: 2015-2-13 14:01
登録日: 2004-2-3
居住地: メロウ倶楽部
投稿: 4289
電気通信大学藤沢分校物語 (3) 3

 ○25番(中田吉堯君)

 この問題に付いては先般市会の全員、協議会の際に石川事務官から詳細に内容を伺いまして、大体内容は承知して居る訳でありますが、愈々本案が市会に提案されましたについては、二、三お訊ねして内容を伺っておかなければならぬと思います。

 第一は260万円の起債額でありますが、石川事務官のご説明では無線講習所の予算総額が260万円で、目黒の講習所が逓信省に移管になり、既設の設備、建物、土地そう言ったようなものが相当あることと思いますが、その方は如何になるのでありますか、それも260万円の中に含むのでありますか、土地、建物の外に機械設備も含むものでありますかどうか、又起債に付いて、こう云うような時局であり、地方自治体と致しまして、緊急欠くべからざるものを起債致しましてもなかなか許可にならないと云うことを聴いて居ります。併しこれは政府の仕事でありますから勿論間違いはないと思いますが、直接の認可権を握っているのは大蔵省らしいのでありますが、之は直ちにでなくても、相当短い期間内に於いて認可になるお見込みでありましょうや否や、それから市の起債の建前として昭和18年度から向う25ヶ年賦で支払すると云うことになって居りますが、これは起債の場合の表面的な建前であって形式的なもので、逓信省の都合のいい時に買収される、斯様に考えて居るのでありますが、25ヶ年もずっとこの儘継続されると云うことになりますと財政上の点から言いましても多少考慮する点があるのではないかと考えられるのであります。

 市の財政としては260万円と云う金は相当大きな額でありますが、国の財政から言うと国家が必要なる急を要する事業として認めて居るものであれば260万円ばかりの金を予算に計上するにしても、亦、計上された予算の中から支出するにしても、そう大きな金額ではないと思われますので、近き将来に於いて買収が出来るのではないか、少なくとも2、3年の後には買収されるのではないか、斯様に考えられるのでありますが、この点は如何でありましょうか。

 それから、若し昭和17年度に借入手続きを終了するとして致しましても、例えば非常に急速にそれが運んで5、6月ごろに金は借入れが出来るようになっても、即ち土地等は借り入れが出来れば直ちに買収が出来ましょうが、建物はなかなか直ぐには出来ない、少なくとも1ヶ年以上はかかると思いますが、其の間の賃貸料は如何になるのでありましょうや。建物がすっかり出来上がってしまわなければお支払いにならないものでありましょうか。其の点も一寸伺っておきたいと思います。

 それから借入し、利子と賃貸料の差額、市の財政上相当考慮して下さると云うお話でありましたが、数字的なご説明を伺いたいと思います。(この項次号に続く)

 注) 本稿で引用した資料は最終稿にまとめて記載します。

 注32)官立無線講習所起債関係書類

 注33)藤澤市會々議録(昭和17年3月26日)

編集者
投稿日時: 2015-2-13 14:00
登録日: 2004-2-3
居住地: メロウ倶楽部
投稿: 4289
電気通信大学藤沢分校物語 (3) 2

 ○番外(逓信省電務局隅野無線課長)(注33)

 先程ご紹介を頂きました逓信省電務局無線課長の隅野と云う者であります。只今市長から、私の方から差上げました公文をご朗読になりましたので、要旨はあれで尽きて居るのであります。時間の関係もありますので詳しいことを申し上げることは差控えます。ごく概略について簡単に申し上げます。

 ご承知のように無線電信電話と云うものの今日の地位と申しますか、その必要性に付いて、皆さん方は既によくご承知のことと思いますので、詳しいことは申し上げませんが、恐らく今日の通信手段としては最重要なものであり、世界各国共に非常に力を入れている問題であります。この通信手段は平時に於いても非常に重要なものであることは申す迄もないことでありますが、殊に、戦争遂行上の手段と致しまして、無線電信電話と云うものがどれ位其の形が変わり、如何なる効果を挙げて居るかと云うことは日常の新聞、雑誌、書物等で詳しいことは書いて居りますので、申し上げる必要はないかと思いますが、この方面に付いて、現在の日本は残念なことでありますが、世界各国に較べまして相当遜色があるのであります。機械、機材の整備、之が操縦、人員等の上に於いて相当遜色があるのであります。そこで斯の業に従っている者は、日夜非常なる苦心、努力を続けまして、其の成績の点に於いては、係の者として吹聴がましいことを言うようでありますが、技術的には必ずしも世界各国に較べて遜色があるとは言えない、私共当局に居ります者として、之が技術の向上、人員の増加、質の向上と云うことに多大の苦心を払って居る訳であります。所が只今迄の所、之を操縦致します人員の養成と云うことに付いては非常に遅れている憾があるのであります。今迄官立の学校は一つもなかった訳であります。陸海軍の方では需要に基づいて養成はやって居られるようでありますが、一般に於ける無線通信士を養成致します官立の学校と云うものはなかったのであります。

 世上に、いろいろと看板を掲げまして、無線通信学校と云うようなものが可成沢山あるように見受けられるのでありますが、これは皆何れも私立の学校であります。故に設備其の他一切の方面に於いて非常に不完備のものが多いのであります。実は甚だ申しにくい話でありますが、こうした看板広告につられて、田舎の青年が希望に燃えてこうした私立の学校に身を投ずるのであります。而して是等沢山の私立の学校と云うものは、現在我国の無線通信士の養成所として是等田舎の希望に燃えた青年子弟を託するに足るだけの域に到達して居ないのであります。

 ただ一つ逓信省の外郭団体で逓信協会と云うのがあります。元の逓信大臣田健次郎閣下がやって居られる東京目黒の無線講習所が信用するに足る立派な学校であったのであります。そこで近年政府に於いては、この目黒の無線講習所を何とかして拡充強化をして立派なものとしたいと云うので、補助金を出し、逓信省の現役の教官を派遣し其の養成に力を入れて居ったのであります。

 所が、支那事変が始まりますと同時に其の需要と申しますか、其の活動範囲も非常に拡大され、従って人員の不足が一段と加わり、更に昨年12月8日大東亜戦争勃発以来、皇軍の活動範囲も非常に広範囲に亘り、地域の連絡にはどうしても無線に依る他ないと云う現況で、りまして、皆様方もご承知のように、現に皇軍が進駐致して居ります南方地域は島々でありまして、交通も不便で有線電話に依る通信手段は困難であります。そこで、殆ど其の通信は無線電信電話に依って居る訳であります。殊に最近は軍艦及び一般の船等の通信の需要が非常に増加し、通信士の養成が急なること、その人員の数の点に於いては実に莫大な数の需要を訴えて居るものと信じて居ります。海軍方面に於いては、ご承知の通り商船其の他一般船舶の保護を致します関係上、どうしても其の連絡を無線通信に依らなければならぬことになりますので、一方に於いては船舶に乗り組んで其の操縦に当たらなければならぬ、それをやるには相当有能な技術者でなければならぬ訳でありまして、海軍方面に於きましては、作戦上の一大部門を占めるものであると云うように、極論致されてまして、昨年度、逓信省に無線電信電話通信士の養成に付いては速やかに予算を獲得して其の養成に当たるように要求されて参ったのであります。

 そこで逓信省と致しましては、東京目黒の無線講習所に眼をつけまして計画を進めて参ったのであります。ご承知のように、こうした要求がありましても、今直ぐにそう云う新しい学ケを即座に造って養成を始めると云うことはなかなか出来にくいのであります。そこで兼ねて、逓信省が保護助成して居りました目黒の講習所を昭和17 年度4月1日から官立学校に移管致しまして、教育其の他一切を、逓信協会(筆者注:電信協会の誤り)から本省に移すと云うことに相成った訳であります。そうして其の予算もご承知の如く議会を通過致しまして、昨日官制も公布され、新たに官立の無線講習所が生まれて来る訳であります。

 そこで問題は、先程から縷々申し上げましたように過去に較べて、其の養成人員も遥かに多くなり、大体約2,000人位を収容する予定でありますが、従来の目黒の講習所の設備だけでは、それだけの人数を収容することが出来ないのであります。そこで其の収容し得ない人間を何処か他に場所を求めて収容しなければならぬ関係が一つと、他に養成する生徒の中で其の訓練場の関係、即ち船に乗り込んで、通信訓練をさせなければならぬ関係上、成るべく海軍方面とも連絡の便の良い適当な場所に学校を建てて貰いたい、そうして日常座臥(筆者注:ふだん、いつでもの意)海員に関する訓練をやって欲しいと云う要求があり、海軍の方ではそうして養成した人間を要員として充て、いと云う要望切なるものがありましたので、何処か適当の地を求めて、校舎を建て、寄宿舎を設けなければならぬと云うことを考えて居ったのであります。

 そうして尚、問題として残りますのは目黒の校舎が其の儘残っていることであります。そうすると学校が二つに別れると云うことは非常に不便と面倒が生じますので、一ヶ所に全部の生徒を収容し得るようにと云う計画の下に、予算を計上し、臨時費として大蔵省に出したのでありますが、残念なことでありますが、当今、皆さん方もご承知のように、国家の財政も当面の戦争目的完遂のために全力が注がれて居る際で、斯ヘな臨時的な設備のために急に多額の経費を計上すると云うことは甚だ難しいことであります。大蔵省に於いても本件建設の趣旨は十分に認めてくれたのでありますが、今直ちに多額の経費は出せない、そこで大蔵省でもいろいろ心配をしてくれて、何等か適当の機関又は公共団体に其の校舎、寄宿舎の建設を願って、政府がそれを借用するようにしたなら如何か、即ち適当なる貸主を求めて、逓信省が之をお借りするようにしてはどうかと云うので、大蔵省でもそれを認めて相当額の金の支出を認めてくれたのであります。私共としても急を要することでもありますので、関係方面とも連絡致しまして適当の土地を物色したのであります。そうして海軍関係とも密接な関係のある湘南海岸が非常に好適の地であると考え調査致しました所、偶々鵠沼海岸の某地点、皆様方もご承知かと存じますが、川沿いに好適の地がございましたので、関係当局とも相談致しました結果、非常に結構であると云うことに、略々話は決まったのであります。

 併し土地は非常にいいのでありますが、其の土地を買い求めて校舎を建て、寄宿舎を建てて頂く人がなければならぬ訳であります。この点に付いて私共非常に心配を致しましたが、当サの方で、そう云うことであれば藤沢市の方で土地を買って、建物を建ててもいい、国家の重要な仕事であり一日も忽せにすることが出来ない、左様な事情であれば国策に寄与する意味に於いても其の役割を買ってあげてもいい、と云うようなことでありましたので、私共も非常に欣びまして、早速逓信大臣始め関係各大臣に報告を致しました所、藤沢市でそこまで尽力して下さると云うことであれば願ったり適ったりである、是非共其のようにお願いして見ようと云うので、私共関係官が一応具体的な説明を申し上げ、更に電務局長から公文で御願書を差し上げ、本日、市会に本件の提案をするからと云うことを承りましたので、罷出まして説明とお願いを兼ねて皆様方の御尽力をお願いするような次第となった訳であります。

 そこで私共として皆様方にご説明を申し上げる前に一番心配致して居りますことは、この仕事をお引受け下さいまして将来市の財政にどう云うふうに、それが響いて来るかと云うことであります。これは皆様方市会議員として、先ず、第一にご心配になる点であろうと思いますが、この点に付いては、私共は寧ろ市以上に心配を申し上げて、出来るだけ有利にと申しますと、甚だ語弊があるかもテれませんが、出来るだけ市の方にご迷惑がかからないように、市の財政に影響のないように、物質的なご損失と云うことは極力避けますことは勿論でありますが、其の他本件に関し市の方でもいろいろ出費を要されることもありましょうし、またご厄介なことをお願しなければならぬこともあると思いますので、出来るだけ融通のつくように計算を致して居るのであります。

 大体以上が大要でありまして、細かい数字に付いてはご質問に応じてお答え申し上げたいと思います。財政的にはこの数字で参りますとそう負担のかかるものでなく、将来に於いてもそうお困りになる程度のものではないと信じて居ります。

 どうか其の意味に於いて、今、申し上げた、国が一番重要性を認め、而も緊急を要する本件建設のために十分なる理解を以て寄与下さいまするならば、洵に有難き極みであると、こう思うのであります。実現致しました暁に於いては、2千人近くの生徒、これが養成に従事致します所員と致しまして所長以下約150名の者が罷り出まして、大変、御市にご迷惑をかけることと思いますが、何れに致しましても、結局は御市に面倒を見て頂かなければならぬことと思いますので、本件を直接お引受、下されば、私共非常に結構なことと思います。

 逓信省と致しましても大蔵省と連絡致しまして、極力市の方に便宜を与えますように予算を編んで参るつもりで居ります。ご承知の通りに国の予算計画は、年毎に更改致しますので、今直ちに、我々の希望して居るような額は得られないのでありますが、将来、無線電信電話の重要性に鑑み、この講習所は無線大学として大きな役割を持つようにならなければならない、斯様な希望と抱負を持って居ります。どうか私共の意の有る所を諒とされまして、本件実現のために寄与して頂くようお願いを致しましてご挨拶に代える次第であります。
編集者
投稿日時: 2015-2-13 13:53
登録日: 2004-2-3
居住地: メロウ倶楽部
投稿: 4289
電気通信大学藤沢分校物語 (3)
 

政府は諸般の事情を考慮の上、無線通信士養成事業を直接逓信省が官立無線講習所として経営することに決定し、社団法人電信協会は政府に対して有する無線講習所の設備一切を寄付した。逓信省は、さらに拡大のため藤沢市当局を動かして校舎の新設等を鵠沼海岸に建造する計画を進めた。本号では藤沢市会での審議の状況について述べる。


4 藤沢市会

 4.1 官立無線電信講習所新設の起債(注32)

 昭和17年3月26日、藤沢市会に大野守衛市長は議案第29号「官立無線電信講習所新設費起債に関する件」を上程した。

 議案29号

 官立無線電信講習所新設起債ニ関スル件

 本市ハ官立無線電信講習所新設費ニ充ツル為 下記要領ニ依リ起債スルモノトス

 昭和17 年3 月26日 藤沢市長 大野守衛

     記

 1 起債額 金260万円

 2 利率 年4 分5厘以内

 3 借入先 大蔵省預金部又ハ其ノ他

 4 借入時期 昭和17年度但シ借入期日ハ借入先ト協定スルモノトス

 5 据置期限

 借入ノ月ヨリ昭和18年2月21日及ビ マデ据置。
 昭和18年4月1日ヨリ償還年限 向ウ25ヶ年賦トス

 6 借入及ビ 普通貸借ノ法ニ依リ借入別紙償還
 
 償還方法 年次表ノ通リ償還スルモノトス

但シ市財政又ハ其ノ他ノ都合ニ依リ繰上ゲ償還ヲ為シ償還年限ヲ短縮シ又ハ低金利ニ借替ヲ為スコトヲ得(以降及び別紙省略)


 4.2 逓信省説明と質疑応答

審議に先立ち大野市長は逓信省電務局長からの校舎等借入の公文(前号、電無423号参照)を読み上げ、更に逓信省の詳細な説明を求めた。

編集者
投稿日時: 2015-2-13 13:18
登録日: 2004-2-3
居住地: メロウ倶楽部
投稿: 4289
電気通信大学藤沢分校物語 (2) 3

 3.8 藤沢市議会での審議

 逓信省は無線電信講習所の官立移管を進める一方、藤沢分教場の建設に関し大蔵省、藤沢市と交渉を進めてきた中村純一電務局長は藤沢市長に改めて校舎借入に関する公文書を送った。

 電務423號昭和17年3月24日

 逓信省電務局長 中村純一

 藤澤市長 大野守衛殿

 官立無線電信講習所校舎等借入ニ関スル件

 近時、無線通信の重要性が一段と増すのに伴いまして、無線通信に従業する無線通信士の養成に就いては海軍其の他の熾烈な要望もありまして、量質共に格段の向上を期することの必要を痛感せらるゝに至り、今般、無線通信士の養成事業を直接当省に於いてキ営することになりました。然しこの実施に就いては時局柄経費の関係を考慮しました結果、所要の校舎、寄宿舎等は借入に依るとの方針で、所要経費を昭和17年度予算に計上し、予算の成立を見た次第であります。所要校舎等新営の候補地を予て物色中の処、貴市域内に格好の敷地を認めましたので、該地に本件無線電信講習所を設置したいのであります。以上の事情を御諒察の上、この際貴市に於いて本件講習所新設に関する校舎、寄宿舎等を新営の上、これを政府に貸與方、御配慮を煩わしたく、照会致します。追って本件御承引を頂ければ、其の具体化の詳細に就いては、必要に応じ当省関係官に連絡をとらせることを申し添えます。(注30)

 大野藤沢市長は同年 3月 26日、藤沢市会を藤沢市役所に招集した。応招議員は24名であった。
 大野藤沢市長は開会宣言のあと(途中省略)「尚、申上げて置きますが、議案中官立無線電信講習所新設費起債に関する件に付いては、逓信省電務局の隅野無線課長ならびに講習所設立委員富永さんがお忙しい中をわざわざ御出席下さいまして、御説明下さるそうでありますから、左様承知願います」と説明、議会出席の承認がされた。議会には隅野無線課長、同事務官石川竹三郎、富永英三郎が出席した。(注31)(以下次号)

 注)本稿で引用した資料は最終稿にまとめて記載します。

 注21)365° vol28
 注22)若宮貞夫先生追憶
 注23)Wikipedia
 注24) 電気通信大学60年史
 注25) 目黒無線同窓會誌第9巻
 注26) 昭和財政史第三巻
 注27)28) 目黒無線同窓會誌第9巻
 注29)若宮貞夫先生追憶
 注30) 官立無線電信講習所新営関係書類綴
 注31)藤澤市會々議録
編集者
投稿日時: 2015-2-13 13:10
登録日: 2004-2-3
居住地: メロウ倶楽部
投稿: 4289
電気通信大学藤沢分校物語 (2) 2

 3.6無線電信講習所の官立移管の意義

 無線電信講習所移管の事は多数の卒業生の多年に亘る希望であり過去民間よりの建議もされ、政府に於いてもその必要性を認め、幾度か関係省の議にも上ったが相当多額の予算を要する事として実現に至らなかった。然し事変の進展とともに通信士の需給問題が関係当局の議に上がり、1940年(昭15)の頃に官立無線電信講習所に就いて根本方針が打ち合わされ実現に就いての電信協会理事者の意見を求められたのは翌年の10月であった。その後何回か懇談を重ね、政府当局でも着々と計画が進められた。(注25)

 第79帝国議会(昭16. 12~17.3)に提出するべき追加予算の編成方に関して、閣議は直面する現下の時局に顧み重点主義に依り物資・資金・労務等の政府需要は戦勝の目的達成に必要欠くべからざるものに集中して実行に着手し、また計上する経費は真に緊急性を有し、実行可能性の確実なものであり3年以上かかるものは認めないとの方針を決定した。(注26)

 賀屋蔵相は財政演説中、特に重点を置き新規経費として計上したもの即ち差し措き難き経費の一つとして官立無線電信講習所設立に関する経費を計上した事を説述した。戦時予算の重点の一つとして官立移管が数えられた事は無線電信が如何に重大な役目を担うか、民に示されたものであり、その責任が如何に重大なるかを具に痛感せしめられた、また多年に亘りこの事を待望していた人々とっては如何に満足と希望を与えられたかを、想像せられ得るのであった。(注27)

 3.7官立移管前後の状況

 本物語は藤沢分校関係の資料を発掘し当時の事情を述べるのを意としている。当然の事だが当時の公文書は旧仮名遣いであり読み難い。そこで公文書を現代風の文章に書き換えて紹介する。

 「無線電信講習所の官立移管状況」として電信協会の廣島庄太郎(注28)が詳細に以下述べている。

 1942年(昭 17)1月 12日に至り官立校経費を含む予算が閣議決定されるとともに、政府からは従来の講習所を政府へ移管継承のこととすれば便益大なる旨の内示もあり電信協会に於いても必要な措置を講じていた。この予算案が愈々議会通過にあたり、政府から改めて下記の如く公文書で申入れがあった。

    電無367号
    昭和17年3月19日
    逓信大臣 寺島 健

 社団法人電信協会会長 若宮貞夫殿
 官立無線電信講習所設立ニ関スル件

 貴会は大正7年9月(注、実際講習を開始したのは大正 9年)国策的使命の下に無線電信講習所を設立し、爾来20有余年の長きに亘りあらゆる困難を克服して至難なる無線通信士の養成事業を鞅掌(筆者注オウショウ:仕事が忙しく暇のないこと)してきましたが、殊に支那事変発生後に於ける無線通信士の需要の増加に対しては良く政府の方針に速応して、所要設備の整備拡充を行い、極力収容人員の増加を図ると共に臨時の養成、其の他の措置を講じて、時局下の重要なる無線通信士の供給に不撓の努力を傾倒しました。今般大東亜戦争勃発に当たりましては陸、海、空無線通信の運用確保に支障がなく、戦争遂行上にも多大の貢献がありました事は国家の為慶賀に堪えざる所でありまして、ここに貴会の永年の御功績に対し深甚なる敬意を表します。然し時局の進展と共に、近時無線通信士の需要は更に急激なる増大を来たし、其の素質に就いても格段の向上が必要となりましたことを踏まえまして、政府は諸般の事情を考慮の上、無線通信士養成事業を直接逓信省に於いて経営することに決定し、昭和17年度より実施のこととなりました。実施に当りましては時節柄、経費及資材等の関係もあり貴会管理無線電信講習所の施設を移管し継承のこととすれば大きな便益があると考えられます。就いては以上の事情を御諒察の上宜敷く御配慮を賜りご面倒をおかけしますがご賛同を得たく御願い申上げます。

 この申込に対して電信協会としては講習所の施設を挙げて政府へ寄付すると云う事は頗る重大なことなので、まず理事会、商議員会を開いて慎重審議を行いその決議の後、昭和17年3月28日臨時総会を招集し協議した。会長は本件について次の通り出席会員に説明した。即ち「昭和17年度初頭から官立無線電信講習所を設置することとなり、今回政府当局からの公文書に依り本会の無線電信講習所設備を無償で政府が譲り受けたい旨、申入れがあったのでこれを本総会に附議すると述べ、本会が当初講習所を創設した経緯に鑑み、この際進んで講習所の設備一切を政府へ寄付するのが最も時期に適した措置と認める」旨の説明をして賛否を諮った結果、これを寄付することに出席会員異議なく賛成し、提議の通りこれを決議すると共に電信協会から次の寄付願書を政府へ提出することを決議した。

     昭和17年3月28日
     社団法人電信協会会長 若宮貞夫
 
 逓信大臣 寺島 健殿
 無線電信講習所施設寄付ノ件

 3月19日付電無367号に依る御下命の趣を承け賜りました。また本協会従来の事績に関し殊に御過賞に預かり誠に恐縮に存じています。御高諭の通り、本会管理無線講習所は無線通信士の養成の為、大正7年官民各面の希望と援助の下に創設しものであります。爾来、其の設備の改善と養成員素質の向上とに努め、当時に於ける斯界の急需を充たすことが出来ました。然し大戦後打続く経済界の不況は海運界にも深刻なる打撃を与え、本講習所に於いて折角養成した通信士も通信士と、ての職がなく、一時は多数の失業者を生ずるに立ち至りました。この救済の一助として、制度の改正に依り一時生徒の卒業を延期し、或は募集員を減少する等、種々の手段を講じましたが、素より需給調節の目的を達するには至らず、加えて生徒数の減少は直に協会の収入減を来たし、経理上にもまた確実な悪影響を及ぼしまして、当時の協会当務者の苦心は実に容易ならざるもので有りました。然しながら、将来我国運の進展に伴い、必ずや此種の技術員の需要が増大し、本事業に対して国家としても必要性が認められる日が恐らく遠くないと想い、難渋を凌いで本講習所の経営を継続してきた次第であります。然るに、其の後上記の予想に違わず昭和 11年頃より経済界は急速に回復し、船舶の建造せられるものが相次いで現れただけでなく、更に勃発した日支事変は航空機、其の他の方面に於いても著しく無線電信通信士の需要を喚起する情勢にありましたので、本協会は此の成り行きを考え、政府当局の協力を得て、翌12年初頭、新に短期修行の通信士養成を開始すると共に校舎其の他の設備拡張に着手致しました。しかし其の工事未だ落成しないうちに、早くも満州国建設に伴う諸般の計画及日支事変の進展は、船舶は勿論方面に異常なる活動を促進して無線電信通信し士の需要が増大して、既存の設備を以てしては到底之に対応する個は不可能となりさらに相次いで第二次、第三次の拡張を行い、最近ほぼ新設備の完成を遂げた次第であります。この新設備では約1,500名の生徒を収容し得ることとなりまして、今にして往時の苦難時代を追想する時は誠に感慨無量のものがあります。これ偏に官民関係各方面より寄せられた厚き御同情の賜物に外ならざることであり、本協会は感激せずには居られないところで有ります。以上の如く本協会が、過去20有余年に亘り鋭意苦心して本講習所を経営してきました理由も、要するに優秀な通信士を供給して、我国に於ける無線通信事業の進歩発達に資せんとする微意に過ぎないことであります。従って今、本講習所設備を政府に於いてこの目的の為に御使用相成りますことは、本協会の本懐とする所でありまして、依って本協会会員総会の決議に依り別紙目録の通り講習所設備一切を挙げて寄付致しますので何卒御受納して頂きたく御願い申し上げます。     
 敬具

 寄付物件目録:土地、建物、附属設備、機械類、
 什器類など(筆者注:詳細は省略)
 評価合計:1,438,559円(筆者円以下切捨) 
 再製概額合計:1,642,151円(上と同様)

 昭和12年から15年迄逓信省電務局無線課長として、講習所の主管課長であり、当時の事情をよく知る宮本吉夫(元逓信院電波局長)は「若宮貞夫先生追憶」の中で次のように述べている。「この文書が20余年にわたる講習所運営の苦心を述べているところは、読む者の胸を打つものがあり、若宮会長の人格と心情をそのまま反映したものであり、いかに戦争による要請であったとはいえ、多年の辛苦の上ようやく軌道にのった講習所を、無償で、国に寄付されるに至ったことは断腸の思いであったと想像する。それにも拘わらず、「本協会の本懐」と述べられ、些かの報償もなく、国に寄付提供されたのであった。」(注29)
« 1 2 3 (4) 5 »
スレッド表示 | 古いものから 前のトピック | 次のトピック | トップ

投稿するにはまず登録を